展覧会概要

この度、写大ギャラリーでは写大ギャラリーコレクション展として、オリジナルプリント50点による写真展「木村伊兵衛と土門拳〈人物〉」を開催するはこびになりました。

 日本の写真界に大きな足跡をしるした木村伊兵衛と土門拳。二人は、昭和のほぼ同時期を併走するかのように活躍しました。また、二人はアマチュア写真家の育成にも熱心に取りくみました。この二人の写真家が、わが国の現代写真にあたえた影響は計り知ることができません。今回の写真展では、二人が心血をそそいで制作した人物―肖像写真の傑作50点を一堂に展示しました。展示作品に登場する46名の人物は、木村伊兵衛や土門拳と同様に、ながい昭和の時間に一時代を築き、昭和を染め上げた人々です。

 人間と、その似姿である肖像の関係にはたいへん奥深いものがあります。写真にかぎらず彫刻、絵画など、肖像は人間文明のながい歴史とともにつくりつづけられてきたといってもよいでしょう。いつの時代の作品でもすぐれた肖像からは、直截で簡潔な表現にもかかわらず、人間にまつわるより広い精神世界が見えてきます。そこに表された人物とその表現だけではなく、その肖像がつくられた動機や目的、その肖像をつくった人、つくらせた人などでつづられた人間のドラマが内蔵されているからでしょう。勿論、約160年前に出現した写真も、時をおかずに肖像をつくりはじめました。そして、彫刻や絵画とはまた異なった、独自の肖像世界を展開して現代にいたっています。

 木村伊兵衛と土門拳は、作品や人柄を対照して語られることの多い写真家ですが、今回の写真展では人物写真の作品を通して、二人の偉大な写真家の表現の個性をじっくりと比べて鑑賞していただけたら幸いです。


「私の写真は読者に伝えることが目的であるから、対象を表現するのに、相手方から受ける感情を写してゆくという内面的なつかみ方と、ふん囲気をつかんでいって、その中から対象を描きだすという、まわりから入ってゆく方法とにもとづいている。」

                     (木村伊兵衛 『木村伊兵衛傑作写真集』の“私の写真技術”より)


「肖像写真とは、歴史的、社会的存在としての個人を記録するものである。」、「その人らしいということと、その人ということは、必ずしも一致しない。」、「撮影で、瞬間の表情にこだわるのは、馬鹿げている。人間はだれでも、泣いたり、笑ったりする。」

                             (土門拳 『風貌』の“肖像写真について”より)