展覧会概要

 デビッド・ダグラス・ダンカン氏は第二次世界大戦中、アメリカ海兵隊の従軍写真記者として数々の優れた写真を撮り、戦後は「ライフ」誌の専属となり世界各国で取材活動を続けてきました。1950年年4月から10月まで日本に滞在中、朝鮮戦争が勃発し取材に現地へ急行、その卓越した写真により「USカメラ」金賞を受賞しました。その後、ロバート・キャパ賞を獲得するなど世界的に著名な写真家であります。

 1950年、ダンカン氏が日本に滞在中、「日本製はチープで粗悪」といわれた時代にニコン(当時の日本光学工業株式会社)のニッコールレンズ・F 1.450mmを積極的に使って朝鮮戦争を撮影し、そのレンズの優秀性を人々に喧伝しました。そのレンズは、大口径の明るいレンズにもかかわらず極めてシャープで、見事な画像の写真がまずはライフの写真家たちの注目を集め、その後、ニッコールレンズばかりでなく、日本のレンズおよびカメラの優秀性が世界中に広まったのです。今日、世界における日本のカメラ産業の隆盛を見るにつけ、その発展のキッカケをつくったという意味で、氏はカメラ産業を含む日本の写真産業界全体の恩人といってもいいでしょう。

 さて、ダンカン氏は1956年南フランスに住むピカソを訪ね、以来1973年ピカソが亡くなるまで、その身辺を空気のように行動しながら巨匠の姿をカメラに収めました。今回はその膨大なネガの中から、ジャクリーヌ(後に妻となる)の肖像を描く巨匠の姿を写した貴重な写真を選び展覧するものです。ピカソは晩年、人前には滅多に姿を現さず、気にいった自分の作品を手元に置いたままでした。氏は1957年の夏、南フランスのピカソ邸「ヴィラ・ラ・カリフォルニー」において、ジャクリーヌの肖像を描きつづけるピカソの姿を47時間にわたって追い、巨匠が一枚の絵をどのように創作していったかという作画過程を写し出すことに成功しました。これらは写真が語る比類ない伝記でもあり、また、ピカソ自身が無言の、しかし最も雄弁な語り手となっている姿を、限られた空間の中、限られた光源を巧みに利用して浮かび上がらせた見事な連作写真です。

 このたびの展覧会は清春白樺美術館およびデビット・ダグラス・ダンカン氏のご好意により実現したもので、ここに改めて感謝の意を表する次第であります。