展覧会概要

 ニコラ・ペルシャイトは20世紀初頭に活躍したドイツの肖像写真家です。

 彼は1864年モーゼルヴァイスに生まれ、1894年30歳のときライプツィヒで職業写真家としてデビューします。当時のドイツ肖像写真界では、被写体にそぐわない背景で生気のない形式的な肖像写真が作られ、また顧客に媚びる、いきすぎた修整がまかりとおるなど沈滞していました。一方アマチュア写真界は、ピグメント印画などによる絵画的な芸術写真が主流をなし活況を呈していました。このアマチュアの芸術写真指向に刺激され、やがて肖像写真にも芸術性を求める動きが職業写真家のなかから起こります。その牽引役を果たしたのがニコラ・ペルシャイトでた。

 ドイツの代表的展覧会であったハンブルグ国際写真展の1899年展に、ルドルフ・デュールコープとともに芸術性を付与した気鋭の作品を発表して人々の注目を集めます。その後1920年代にかけて彼は数多くの芸術的肖像写真を生みだし、多大の名声を手中にします。やがて彼の後に続くものが現れ、ドイツの肖像写真界は数年にして面目を一新します。ドイツ肖像写真のこうした改革運動は世界の肖像写真界にも大きな影響を与えました。

 ニコラ・ペルシャイトは肖像写真における芸術的要求を満たすために1925年、特殊軟焦点レンズ-ニコラ・ペルシャイトを考案します。肉眼の印象に近いソフトで自然な描写のこのレンズは評判を呼び、世界各地の肖像写真家に重用されるようになりました。日本へは1928年浅沼商会によって輸入され、沈滞気味で新しい方向を模索していた営業写真家におおいに歓迎され、わが国の肖像写真の質的向上に寄与しました。東京写真師協会はその功績を称えて1929年、ニコラ・ペルシャイトを名誉会員に推挙しています。

 レンズの輸入に併せて浅沼商会は写真界の啓蒙とレンズの優秀さを実証することを目的にニコラ・ペルシャイトの作品を購入し、日本各地で巡回展覧しました。本展で展示した作品はそのときのヴィンテージプリント19点です。これらの作品はすべて写大ギャラリーコレクションとして収蔵されているもので70年ぶりの公開となりました。

 また同時に当時の日本の代表的肖像写真家・有賀庸五郎、五十嵐輿七、堀不佐夫の作品を展示いたします。三氏はそれぞれ直接あるいは間接に写真家ニコラ・ペルシャイトから影響を受けた人達であり、展示する作品のほとんどはニコラ・ペルシャイトレンズで撮影されたオリジナルプリントです。

 感光材料、用具など必ずしも満足できる状況ではなかった時代に、写真に芸術的薫りを求めて情熱を燃やした先人の技芸を、現代の作品と比較してみるのも意義あることと思います。