展覧会概要

 マーティン・パーはイギリスを代表する現代写真家の一人で、写真家集団「マグナム」の会員として国際的に活躍している写真家です。1952年、ロンドン郊外のエプソムで生まれた彼は、70年にマンチェスター大学に入学し写真を学びました。73年に同大学を卒業すると同時にドキュメンタリー写真家としてスタートを切り、その後、精力的な写真家活動を展開して今日に至っています。また、74年にイングランドのオールダム芸術大学で写真を教えたのを初め、イギリス国内やヨーロッパの数多くの大学や美術学校、写真学校で写真の教育にあたってきました。彼は、写真家と写真教育者の双方の活動で、今日のイギリスとヨーロッパの若い写真家たちに大きな影箸を与えています。

 70年代の末期から90年代の初頭にかけての約15年間にわたり、マーティン・パーは鋭敏で冷静な社会学的観察力と明るく快活なカラー写真で、イギリスの経済的中間層の人々、いわゆる普通のイギリス人の日常生活の有り様や、外国に観光旅行や買い物にでかけた人々の行動を人間風刺的な観点から撮りつづけ次々と発表してきました。

 今回の写真展『HOME AND ABROAD』の35点の作品は、この間のマーティン・パーの仕事の集大成として93年にまとめられた作品群から写真家自身が精選して構成したものです。どの作品からも、独特のイギリス人気質、イギリスの伝統的な階級区分を超えて見られる画一的で時には本能的にも思える消費中心主義の生活行動、そしてヨーロッパ文化の急激な均質化現象などが複雑に絡みあった、現代イギリスの時代相と人間模様がくっきりと浮かび上がってきます。

 ところで、この写真家の作品には二重の楽しみが潜んでいるようです。まず、鮮やかな色彩とともにどこかユーモラスで暖かみのある、楽しげな人々の光景が目に飛び込んできて、なにかいい気分につつまれてしまいます。そのうち、ちょっと奇妙でいわくありげな雰囲気が漂ってきます。ほどなく、その光景の奥底に、時代の観察者マーティン・パーの痛烈な人間風刺の視線が焼き付けられていることに気がつくことでしょう。マーティン・パーの表現の特徴と面白さは、同時代を生きる人々への愛着と容赦ない皮肉り、この二段仕掛けの微妙なコントラストにあるようです。