展覧会概要

このたび、写大ギャラリーでは土門拳展「法隆寺・薬師寺」(古寺巡礼・第一集より)を開催するはこびとなりました。

戦前、戦後を通じて日本写真史上に大きな足跡を残した写真家土門拳(19091990)。彼の代表作には「風貌」「ヒロシマ」「筑豊のこどもたち」ほか数多くありますが、その中でも「古寺巡礼」は土門拳のライフワークともいえる作品です。

 1939年、日本工房を退社した土門拳は、美術史家の水沢澄夫の案内で初めて室生寺を訪れ、その建築や仏像に強い感銘を受けて仏教美術に開眼していきます。1940年、京都広隆寺の弥勤菩薩の撮影が始まりとなり、戦前は中宮寺、室生寺などで仏像を撮影していきます。戦後間もなく再び室生寺を訪れ、1954年には写真集「室生寺」を出版し、翌年には毎日出版文化賞を受賞します。その後も各地の寺を幾度となく訪れ、大型カメラを駆使してカラーとモノクロの作品制作を精力的に続けていきます。

「古寺巡礼」(美術出版社発行)は第一集が1963年に刊行され、1975年第五集の発刊まで12年の歳月をかけ、病と闘いながら完成させた執念の全集であります。土門拳は「古寺巡礼・第一集」のまえがさ末尾に「これは飽くまでも、ひとりの日本人の、みずからの出自する民族と文化への再確認の書であり、愛惜の書であるつもりである」と述べています。世界に類を見ない日本文化の美しさ、力強さ、日本人のもつヴァイタリティーを見直すということが土門拳の意思であったといえます。土門拳は自身の心に留まる寺と仏像のみを選択して撮影しています。対象に肉薄する鋭い眼差しが、大胆な画面の構成、光へのこだわり、鮮鋭描写などによって実在感溢れる、迫力に満ちた土門独自の作品を創りだしています。まさに、土門拳の表現世界がここにあるといえます。

 本写真展では、「古寺巡礼・第一集」の中から飛鳥文化の代表的名刹法隆寺と白鳳文化の代表的な寺薬師寺とを採り上げ、写大ギャラリー・土門拳コレクションより55点を展示いたします。世界遺産にも登録された両寺のもつ日本文化の素晴らしさを、あらためて堪能いただくとともに土門拳の世界をごゆっくりとご鑑賞ください。