展覧会概要

 築地仁は日本の現代写真に独自の位置をしめている写真家です。1947年に神奈川県横浜市に生まれ、1965年、東京写真短期大学写真技術科(現東京工芸大学芸術学部)に入学し写真を学びました。同学卒業後、通信社、PR写真、雑誌の仕事に従事するかたわら1968年ごろから創作活動をはじめました。1975年、初めての写真集『垂直状の、(領域)』を出版し、1977年に初個展「方向量」を開きました。もっとも最近では、1998年9月に個展「母型都市・横浜」(パストレイズフォトギャラリー 横浜)を開催しました。1985年には写真集『写真像』で日本写真協会新人賞を受賞しています。

 彼は、いつも「写真家とは何なのだろう」と自問しながら、1970年代の中期から現代都市の建造物や光景にレンズをむけ、光と影の変幻、豊かで鋭敏な視覚性で写真の面白さを淡々と、かつ、執拗に追求した仕事を写真誌、写真展、写真集等に発表しつづけてきました。この写真家の作品には、それぞれの撮影対象、つまりいわれるところの被写体が固有する属性的意味あいにおもねるところがほとんどありません。

 彼がつねに眼前の対象に直観、対峙しているものは、そこから写真表現独自の視覚性とその面白さをひきだし、自己の思想や思考を写真像にいかにダイレクトに図示するかなのです。その結果としての簡潔で明快な表現には、どこか写真の原初的な雰囲気がただよい、そのただよいの隙間に人間の現在が見えかくれしているようです。ここに築地仁の表現の独自性があるといえるでしょう。被写体諭的写真があふれる今日の日本の写真表現野のなかで、この写真家の表現は希有な存在といえましょう。

 築地仁の写真の面白さを成立させてきた原点から、最近の新しい展開までの全体像をあきらかにし、この写真家の写真意識を検証しようとする試みとして企画したものです。