展覧会概要

写大ギャラリーでは1978年に『写大ギャラリー土門拳コレクション』が創設されて以来、年に一度は土門拳のオリジナルプリントを展示しています。

土門拳は日本の写真表現が近代写真から現代写真に移り変わる重要な時期に活躍し、指導的役割を果たしてその後の日本の写真界に多大な影響を与えた写真家です。彼はまた日本を愛し、日本人を愛し、日本固有の文化を愛し、それらを記録することに情熱を注いだ写真家でもありました。1979年70歳で三度目の病に倒れるまで作家活動を続け、『風貌』 『室生寺』 『ヒロシマ』『筑豊のこどもたち』『文楽』『古寺巡礼』など数多くの作品を遺しています。なかでも彼のライフワークである『古寺巡礼』シリーズは圧巻です。これは「日本民族の文化遺産の記録」と「ひとりの日本人の、みずからの出自する民族と文化への再確認」のために撮り続けてきた執念の作品群です。

『古寺巡礼』には、クローズアップ作品が随所にみられます。その鮮鋭描写はモノの質感や量感をとらえながら、その先にある被写体が内包する精神性までも浮き上がらせ、それがひとつの魅力となっています。一方、『古寺巡礼』には同一被写体をあつかいながら視点の異なった作品がいくつもおさめられています。注意深く見ていくと、クローズアップ作品にいたるまでの、感情の高揚につれて推移する作者の視点の軌跡が感じとれて、そこにもまた興味深いものがあります。彼は次の言葉をのこしています。「ぼくは被写体に対峙しぼくの視点から相手を睨みつけ、そして時には語りかけながら被写体がぼくを睨みつけてくる視点をさぐる。そして火花が散るというか、二つの視点がぶつかった時がシャッターチャンスである。バシャリとシャッターを切り、その視点をたぐり寄せながら前へ前へとシャッターを切って迫っていくわけである」。

『古寺巡礼』全五集には787点の作品が納められていますが、今回はこのなかから第二集をとりあげました。飛鳥寺、東大寺、聖林寺、唐招提寺、神護寺、渡岸寺を撮影したカラーおよびモノクロ作品あわせて56点のオリジナルプリントを展示いたします。写真家土門拳が独自の美意識によって対象を徐々に追いつめ核心にせまっていく過程を追体験できるかたちの展示を試みました。