展覧会概要

1944年、東京写真専門学校(現東京工芸大学)を卒業した大辻清司氏(1923-)は、戦後まもなく撮影の仕事にたずさわり、美術文化協会展などで前衛的写真作品を発表していきます。1953年には若い前衛的な芸術集団「実験工房」(1951年結成、瀧口修造が命名)に会員として参加します。またこの年、写真とグラフィック・デザインとの新たな融合をめざす「グラフィック集団」の結成にも加わり、様々な芸術やデザインの領域とも関わりを持ちながら、“実験”精神に満ち溢れた写真制作活動を展開していきます。

大辻清司氏は、ごく日常的な“モノ”に興味を抱き、自己の中に生じたモノへの存在意識とそのモノ自体に意味を付与していく“写真実験”を様々なかたちで行っていきます。これは戦前にマン・レイやモホリ=ナジの写真に衝撃を受け、また瀧口修造(詩人・美術評論家、1938年前衛写真協会を発足させる)の写真論に傾倒していき、シュウルレアリスムや前衛写真に魅了されていった大辻思想の具現化でもあります。また、大辻氏は「実験工房」時代の芸術家のパーフォーマンスやスナップ・ポートレートを独特な視線で撮らえて、美術雑誌などに発表しています。1960年後半になると、対象が“モノ”中心だけではなく、身近かな環境のスナップショットも多く撮るようになり、何気ない光景の中に大辻氏独自の“時間と空間”が表現されていきます。

写真を本格的に始めて50数年、写真と戯れ、思いつくがままの実験を行い、記録と表現という写真の本質を淡々とした姿勢で追い求めた大辻氏は、日本の写真家の中でユニークな存在として、いま、また、脚光をあびています。

大辻氏は写真家としてだけではなく、写真評論の分野でも活躍し、1960年代半ばからカメラ雑誌を中心にエッセイ、写真評論、写真論などを次々と連載していきます。

更には、大辻氏は、長年写真教育に精力をつぎ込んできた教育者として大きな功績を挙げています。1958年、桑沢デザイン研究所をかわきりに東京綜合写真専門学校、武蔵野美術大学、東京造形大学、筑波大学、九州産業大学など40年近くもの間教鞭をとり、写真家を始めとして多くの優秀なクリエーターを社会に送りだしています。

大辻氏は、写真家・写真評論家・写真教育者として総合的に写真界で多大な功績を挙げた日本では数少ない“写真人”といえます。

今回の写大ギャラリー展では写真家・大辻清司氏の足跡をたどり、1950~60年代に撮影された当時のヴィンテージプリントを中心に写大ギャラリーコレクションを加えて展示しました。