展覧会概要

 当ギャラリーでは1978年に(写大ギャラリー土門拳コレクション)が創設されて以来、年に一度は必ず土門拳のオリジナルプリントを展示しています。

 土門拳は日本の写真表現が近代写真から現代写真に移り変わる重要な時期に活躍し、指導的役割を果たしてその後の日本の写真界に多大な影響を与えた写真家です。1979年70歳で三度目の病に倒れるまで作家活動を続け、「風貌」「室生寺」「ヒロシマ」「筑豊のこどもたち」「文楽」「古寺巡礼」など数多くの作品を残しました。

 なかでも全五集787点からなる『古寺巡礼』シリーズは四十年の長期わたって撮り続けられた彼の執念のライフワークともいうべきもので、そこには用意周到な調査に裏づけられた独自の価値基準によって切り取られた作品群が収録されていて圧巻です。

 1999年、2000年と『古寺巡礼』の第一集,第二集を順次展示してまいりましたが、今回は第三集におさめられている作品の中からカラー・モノクロームあわせて56点のオリジナルプリントを展示いたします。

 『古寺巡礼』第三集には「日本民族が唐を中心とする大陸文化を摂取消化して、いわゆる日本的な文化を確立した」平安時代のものが収録されています。「日本民族の文化遺産の記録」と「ひとりの日本人の、みずからの出自する民族と文化への再確認」を掲げて、『古寺巡礼』の撮影に臨んだ土門拳にとって、この平安仏教美術との対面は特別感慨深いものがあったのではないかと推測されます。

 ここには、1939年初めて訪れその後『古寺巡礼』シリーズの撮影を始めるきっかけともなった室生寺をはじめ、「日本第一の名建築」とその建築美を賞賛して止まなかった三仏寺の投入堂、更には不動のはずの建造物が、茜雲を背に目くるめく速さで走っているように見え、思わず「カメラ」と叫んだとの逸話を残している平等院鳳風堂など、思い入れの深い作品が含まれています。

 大陸の影響から離れて自立開花したこの時代の貴重な仏教美術は,残念ながらその多くが長い時の流れの中で戦乱などに巻き込まれ失われてしまっています。残存する数少ないそれらを、土門リアリズム美学は細部に至るまで克明に記録していますが,そこにはかけがえのないものを慈しむ人間・土門拳の温かなまなざしが感じとれます。