展覧会概要

 この度写大ギャラリーでは〈土門拳展「石」古寺巡礼第4集より〉を開催するはこびとなりました。

 1978年に《写大ギャラリー土門拳コレクション》が創設されて以来、写大ギャラリーでは年に一度は必ず土門拳のオリジナルプリントを展示しています。

 土門拳は日本の写真表現が近代写真から現代写真に移り変わる重要な時期に活躍し、指導的役割を果たしてその後の日本の写真界に多大な影響を与えた写真家です。また日本を愛し日本人を愛し日本固有の文化を愛し、それらを記録することに情熱を注いだ写真家としても知られています。

 1979年に70歳で三度目の病に倒れるまで作家活動を続け、「風貌」「室生寺」「ヒロシマ」「筑豊のこどもたち」「文楽」「古寺巡礼」など数多くの作品を残しました。なかでも彼が生涯をかけ「日本民族の文化遺産の記録」であるとともに「ひとりの日本人の、みずからの出自する民族と文化の再認識の書であり、愛惜の書」と位置付けてスタートした古寺巡礼全五巻は圧巻です。

 今回は古寺巡礼第4集から52作品を選んで展示いたします。第1集・第2集・第3集と巻を重ね、次の出版に取り掛かろうとしていた矢先の1968年、土門拳自身の病気再発により編集作業の中断を余儀なくされてしまいました。それから3年余の歳月を経てようやく出版されたのが古寺巡礼第4集です。土門拳の再起です。

 もともと古寺巡礼シリーズには石造美術(土門拳自身の言葉)が取り上げられてきましたが、第4集は前巻までと比べ際立って多くの石造美術が登場します。臼杵石仏群・嵯峨野石仏群・春日山石仏群などそのほとんどが平安時代から鎌倉時代にかけて刻まれた石仏や仏塔です。庶民の信仰の対象であった石仏は、大寺の伽藍に保護されている木彫仏や金銅仏と異なり、その製作者の多くが民衆のなかの石工であったようです。造りが稚拙でそれがかえって人間味に溢れる豊な表情を創り出し、それが長い時の流れのなかで風雨に晒され、一層味わい深い表情になっています。

 土門拳自身もこの第4集に「石仏たち」という一文を載せてその魅力を語っていて作家の石仏への思い入れの深さをうかがい知ることができます。

 土門拳はおおらかでやさしい表情に日本人の原像を重ねて見ていたのではないでしょうか。土門拳のとらえた「石」の表情をご覧頂きたいと思います。