展覧会概要

 このたび、写大ギャラリーでは井津建郎『アンコール遺跡光と影』展を開催するはこびとなりました。

 ニューヨーク在住の写真家・井津建郎氏は1949年大阪に生まれ、1970年日本大学芸術学部写真学科を中退して、この年アメリカに渡ります。スタジオの助手を経て、1974年にはニューヨークにスティル・ライフのスタジオを開設し、フリーランスの写真家として広告写真を中心に活動を開始します。1979年からは仕事のかたわら、生命の根源としての“石″の神秘性に興味を抱き、エジプトのピラミッドをかわきりに世界の石造遺跡を撮り始めます。1993年からはカンボジアのアンコール遺跡に何度も足を運び、「アンコール遺跡光と影」を制作します。これら石造遺跡の撮影は井津氏のライフワークとして現在も継続中であります。なお、井津建郎氏は2000年4月より本学芸術学部客員教授に就任されております。

 井津氏はアンコール遺跡で撮影している際に、カンボジアの長い内戦であちこちに埋められた地雷を踏んで手や足をなくした多くの子供たちに出会って、ショックを受けたといいます。何か自分にできることはないだろうかと考え、アンコール遺跡の写真の販売で得た売上金のすべてを基金として、子供たちのための病院をつくることを決意します。そして、1995年井津氏の呼びかけのもとに様々な賛同者、協力者を得て、非営利団体「FRENDS WITHOUT A BORDER国境なき友人」がニューヨークに設立され、多くの人々の善意によって1999年2月アンコール・ワットに近いシャムリアップ市に「アンコール小児病院」が完成します。現在もこの病院の運営のために寄付やボランティアは続けられています。井津建郎氏はアンコール遺跡の写真制作に関連したこの病院建設活動に対して、日本写真協会から2000年度日本写真協会賞文化振興賞を受賞しています。

 12世紀初頭に建てられたアンコール・ワットを中心とする遺跡群は、永い歴史の積み重ねによる石材の劣化とともに相次ぐカンボジア内戦の傷跡により朽ち果ててきています。写真家・井津氏は、アンコールの地に身を置いていると半(切猪嘘と化した遺跡になぜか“′ぬくもり″とやすらぎ″を感じるといいます。

 本展の作品は、フィルムサイズ14×20in(35×50cm)という特注の超大型カメラで撮影し、そのネガから密着焼き付けしたプラチナ・プリントで仕上げています。超大型ネガのもつ細密殴とともにプラチナ・プリントのもつ微細な階調と温黒のやさしさ溢れる色調とがあいまって、美しさと力強さに満ちた格調を感じさせてくれます。アンコール遺跡に対する作者の深い精神性を表現している作品であります。

 本写真展では、『アンコール遺跡光と影』のプラチナ・プリント38点を展示いたします。なお、写真展開催にあたりまして駐日カンボジア王国大使館のご後援をいただいております。