「自然の鉛筆」
#5 パトロクロスの胸像 1843年

「自然の鉛筆」
#6 開いた扉 1844年頃

「自然の鉛筆」
#7 植物の葉 1840年頃

展覧会概要

本展は、写大ギャラリーコレクションより、ネガ・ポジ法写真術の発明家 ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットのオリジナル・ネガからプリント制作された作品を展示するものです。

1839年に世界初の写真術としてフランスで発表されたダゲレオタイプ(銀板写真)は、金属板の表面に像を直接焼き付けるもので、複製が出来ない一点限りの写真でした。しかし、同時期にイギリスでタルボットが考案したカロタイプは、一枚のネガから複数のポジ像(プリント)が得られるもので、複製技術としての近代写真術の基礎となっています。
1844年〜46年にかけてタルボットが制作、発行した世界で最初の写真集『自然の鉛筆』(全6巻)は、カロタイプが持つ、複製技術としての様々な可能性を写真と文章で紹介するものでした。そこでは、写真による記録、複写といった実用性だけではなく、後の写真術の発展と共に現れる、写真の芸術性についても示唆されています。

写大ギャラリーでは1977年9月に、イギリスのフォックス・タルボット美術館の協力のもと、日本初のフォックス・タルボット展を開催しました。当時の写大ギャラリー運営委員長であった写真家の細江英公(現・本学名誉教授)が、1976年にフォックス・タルボット美術館を訪れ、ロバート・ラーサム館長(当時)よりタルボット没後100年記念展に向けて同館が特別制作していたプリント・セット3部のうち一部を貸し出す申し出を受けたことから、その展示が実現しました。同館の配慮により、借り受けた全42点(『自然の鉛筆』掲載全24点と未発表作品)を、その後、写大ギャラリー・コレクションとして収蔵しています。
これらのコレクションは、タルボットが制作した時代の紙質と極めて近い紙を特別に用意し、当時の処方で乳剤を作り塗布した印画紙に、タルボットが撮影した現存するオリジナル・ネガから、マイケル・グレイ氏(1989〜2003年 フォックス・タルボット美術館館長)によってプリントされたものです。

時代はフィルム写真からデジタル写真へと完全に移り変わろうとするいま、タルボットのプリントを見つめ、当時と現在の写真を取り巻く状況を比較することで、改めてタルボットが『自然の鉛筆』で示唆した写真の可能性について問い直す機会になればと存じます。

基本情報

会期 2016年4月18日(月) ~ 2016年6月5日(日) 10:00 ~ 20:00
会期中無休・入場無料
会場 東京工芸大学 写大ギャラリー
〒164-8678 東京都中野区本町2-4-7 芸術情報館2F
TEL 03-3372-1321 (代)
地下鉄丸ノ内線/大江戸線 中野坂上駅下車 1番出口・徒歩7分
展示作品 モノクロ写真作品 42点
主催 東京工芸大学芸術学部
企画・構成 吉野 弘章 写大ギャラリー運営委員長

作家プロフィール

W.H.フォックス・タルボット(William Henry Fox Talbot, 1800−1877)

イギリス・ウィルトシャー州の名門貴族の家に生まれる。ケンブリッジ大学に学び、科学者としてだけでなく、数学者、考古学者、語源学者としても知られており、英国王立協会に数多くの研究論文を発表している。1841年、一枚のネガから複数のプリントを得ることができる、現在の写真の原型といえるネガ・ポジ法の「カロタイプ」を発表した写真術の先駆者の一人。1844年から46年にかけて世界最初の写真集『自然の鉛筆』を出版した。バビロニアの楔形文字の解読、アッシリア語辞典の編纂などにも携わり、自らの言語研究にもカロタイプを用いていた。