渡辺義雄「古寺大観」1972年

本城直季「small planet」2006年

中谷吉隆「オレは雷族」1959年


細江英公「鎌鼬」1965年

高木こずえ「MID/GROUND」2009年

大辻清司「新宿・夜」1952年

展覧会概要


 写大ギャラリーでは、東京工芸大学創立100周年を記念して、コレクションの中から卒業生の作品をご紹介する展覧会を開催いたします。この展覧会は、時代の変化と表現の変化という2つの軸に焦点を当て、本学の卒業生の作品を通して、この100年間の社会と写真表現の変化、変遷が展観できないかと企画構成しました。

 今回展示する作品は、建築物、都市や街並みを写した写真に始まります。そして、戦後の復興により目覚ましく変化する人々とその暮らしを追った写真や、文化や思想など時代のあり様を捉え、その変遷が見えてくる写真をセレクションしています。また、もう一方で、写真というメディウムや、その可能性に興味を持って作られた作品、心象風景を表した写真もピックアップしました。

 渡辺義雄は数多くの古社寺を、村井修は丹下健三の作品をはじめ多くの建築物を、本城直季は大判カメラのアオリ機能を用いたミニチュアのような街や人物を撮影しました。田沼武能の捉えた凄まじい勢いで復興を遂げ、移り変わる東京の街並み、中谷吉隆の伝える若者の文化や安保運動、大きく変化する時代の空気の中で、立木義浩は「舌出し天使」で躍動する一人の女性を描き、細江英公は巣鴨や葛飾界隈と秋田の農村を舞台に舞踏家土方巽をモデルにした「鎌鼬」で日本人の原風景を探ります。飯島幸永は津軽や越後、八重山と、日本の南北の風土と人々の暮らしを、梁丞佑は都会のど真ん中新宿歌舞伎町に集まる人々のスナップショットと、彼らの写真からは日本の様々な場所の風俗が見て取れます。
 そして、もし昭和という時代が続いていたらという架空の時間軸に基づいて世界を表した薄井一議、生と死の間に移ろい現れる画像を捉えた高木こずえ、デジタルとリアルとの境界について写真を使って問いかける吉田志穂と、世代が変わるにつれ、形のないものをいかに捉えるかという意識が強くなってくるようにも見受けられます。さらに、幼い息子をモチーフにコラージュなどの手法で心象風景を描き出す河野安志、さまざまな領域のアーティストたちと交流を深め、写真というメディウムの可能性について思考した作品を展開した大辻清司と、気がつくと世代がぐるりと一周して戦後世代の写真に戻ってきます。

 渡辺や田沼らの写真に見られる被写体への興味や、被写体を描写しようとする意識は、時代を経るに従い変化し、形になっていない、見えないものを写真で表したいと考えるような世代が増えてくるようでもあります。こうした被写体という存在の軽重は、複雑化し見えにくくなってきた社会に呼応してきたものなのでしょうか。このように時代の変化を表そうとした写真家の意識と、写真というメディウムの可能性を考えた写真家の意識の変化という2つの軸は交錯し、循環し、まるでメビウスの輪のように表裏一体となって写真表現の大きなうねりを形作ってきたのかもしれません。

 東京工芸大学出身の作家たちの個性豊かで多種多様な作品から、写真と社会のつながり、写真家たちが写してきた時代と写真表現の変遷をお楽しみいただければと思います。

(企画構成 菅沼比呂志)

〔主な出品予定作家〕

渡辺義雄、村井修、築地仁、中島秀雄、本城直季、田沼武能、中谷吉隆、立木義浩、安達洋次郎、細江英公、飯島幸永、古屋誠一、梁丞佑、松尾忠男、薄井一議、鈴木心、高木こずえ、吉田志穂、河野安志、大辻清司ほか

基本情報

会期
2023年6月9日(金)〜 2023年8月5日(土)
開館時間
10:00〜19:00
休館日
木曜日、日曜日、祝日
入場料
無料
会場
東京工芸大学 写大ギャラリー
〒164-8678 東京都中野区本町2-4-7 5号館(芸術情報館)2F
TEL 03-3372-1321 (代)
地下鉄丸ノ内線/大江戸線 中野坂上駅下車 1番出口・徒歩7分
展示作品
カラー・モノクロ写真作品 56点
主催
東京工芸大学 芸術学部

東京工芸大学

東京工芸大学は1923(大正12)年に創立された「財団法人小西寫眞(写真)専門学校」を前身とし、創立当初から「テクノロジーとアートを融合した無限大の可能性」を追求し続けてきました。
2023年に創立100周年を迎えました