展覧会概要

 このたび、写大ギャラリーでは東松照明写真展『長崎<11:02>1945年8月9日』を開催するはこびとなりました。

 現代日本を代表する写真家・東松照明氏は、戦後の日本社会と日本人をテーマとして、写真集『<11時02分>NAGASAKI』『日本』『戦後派』『太陽の鉛筆』などをはじめとした出版および写真展で数々の作品を発表してきました。氏の鋭い洞察力と卓越した表現力から生みだされたこれら作品群は、日本のみならず世界でも大きな評価を得てきました。そして、いまも精力的に制作活動を続けています。

 今回、写大ギャラリーでは、東松氏の代表作のひとつでもある『長崎<11:02>1945年8月9日』を展示します。このタイトルは、いうまでもなく長崎に原爆が投下された日時を示しています。東松氏は1960年に初めて長崎を訪れ、資料館で原爆の恐ろしい威力によって変質・変形した“もの”たちが8月9日の時間で停止している状態に触れ、また一方、被爆者の人々が今なお現在進行形の時間のなかで、肉体と精神の苦しみを抱えて生活している姿に接し、大きなショックを受けます。

 1961年、東松氏は、この、けして忘れてはならない過去の時間と、そこを起点とした現在進行形の時間をとらえるために“長崎”の撮影を開始します。その結果はまず土門拳の“広島”とともに『hiroshima-nagasaki document 1961』として出版します。その後も、ほぼ毎年のように長崎を訪れて撮影を続け、“長崎”の写真集を出版していきます。東松氏は写真集『長崎<11:02>1945年8月9日』(1995年出版)のあとがきで「この写真集は、原爆の被害記録だけを編んだものではない。あえて性格づけるなら、原爆による悲惨を礎とし、その上に構築した都市像とでもいうか、写真で綴る都市論である。」と述べています。現在は長崎に住居を移して、自身のライフワークとしての“長崎”を撮り続けていました。

 今日では、資料館における“原爆の痕”を除いて、長崎の街は一見何事もなかったかのように復興・繁栄し、多くの観光客が訪れています。しかしながら、日本人として、私たちは、この地での55年前を決して風化してはならないのです。特に若い人たちにとっても。東松氏は写真をもって強く語りかけます。

写真展では、1961年~1975年の作品45点で構成しています。